省エネ策実施体験での誤算のお話
― DHC導入ビルでの落し穴 ―
近年省エネが叫ばれてから既に久しいですが、先ごろの東日本大震災を機に一段とこの社会全体がエネルギー環境の厳しさにさらされています。それに伴って建物内の設備管理の仕方も省エネに重点を置いて見直すべきことが強く要請されていて、他のすべての業界を含めこの傾向は現代社会の趨勢として定着するものと見られます。既設ビルでは機器の運転時間を短縮したり機器の最適稼働条件を整えることにより使用エネルギーを少なく抑える、更には省エネへの改善投資を決断するなどして、省エネを視点にビル管理の在り方を見直す必要に迫られています。
私共は空調設備の設計・施工・エネルギー管理等の長い経験を有する技術陣を中心に、数年前から上記の必要に迫られた数々のビルオーナーを支援して参りました。その過程で様々な問題に遭遇しましたが、その中の一つの慎重に取組んだ大型ビルで遭遇した誤算について教訓を兼ねて概要をお話いたします。
延床面積約40,000m²×12階建のCPUビルで、その内空調面積は60%でそこは9割がた電算機室と関連事務室で占めるテナント部分でありました。空調熱源はDHCからの冷水と高温水の受給によるもので、冷水熱使用量は冬季でさえ夏季最盛期の1/2に及ぶほど通年冷水熱使用の多いビルであり年間70,000GJにも達していました。
しかしビルオーナーからは省エネ対象は共用部だけでテナント部分には手を付けてはならないという制約を課せられました。共用部で使う年間使用冷水熱量はビル全体の15%程度であり、全体から見た省エネ効果が僅かになるけど、省エネ目標を共用部使用冷水熱量の5%に置いて省エネ策を立案し11〜4月の6ケ月間その方策を実施しました。結果は省エネどころか返ってやや増えていました。
対策実施期間の共用部の冷水熱使用量はそのテリトリーの熱量計からほぼ予定に近く減少していることが解っていたので、意外な結果の原因を追跡すると簡単で見落とし易いところに落し穴がありました。
ビルオーナーがビル全体の冷水熱使用量を把握する月間集計表は(1)取引メータ値(2)テナントメータ集計値(3)共用部使用値 の三項目で構成されていました。しかしながら、(1)と(2)はメータ実測値であったが共用部使用値は単に (3)=(1)-(2)の引算の結果値でしかなかったのです。この手法は各メータの計測誤差の存在が必然であることから(1)=(2)+(3)が計算値として成立せず、(3)にすべてをしわ寄せさすと言うやむを得ない便法の一つであった訳です。従って共用部使用値には (1)と(2)の計測誤差が一緒になって存在し、調査の結果では公表された共用部使用値は共用部使用実績値の約2.5倍にも膨れ上がった値でありました。そしてこのように実績値の2.5倍もの架空の数値が支払ベースの共用部公表値であり、この架空値が減少しない限り共用部使用量の削減にはならない仕組になっていたのです。
即ち目の前に2.5mの壁があって、壁の向こう側に1mの棒が立っていてもその姿は見えないので、その棒が0.5mになろうが1.5mになろうが壁の向う側の人には棒の変化など感知できず無関係なわけであります。私共は「共用部の冷水熱使用量」の削減に向って手をつくして使用量実績値の20%以上の削減効果を上げているのに(1mの棒を0.8m以下にしたのに)、公表値には少しの減少数値も現れず(壁の向う側の人に見えなかった)何もしなかったと同じだったのです。従ってオーナーに支払ベースの数値の低減による利益をもたらすことが出来ない結果となり、無駄骨に終わってしまいました。これが冒頭副題の「落し穴」の意味であります。DHCから熱を導入しているビルでは支払ベースの月間使用熱量集計表がどのような構成になっているかを明確に把握してからことにあたるべきと深く反省いたしました。
しかしながら他の電力・温水熱については上記冷水熱と同様な不利な傾向があったけれども、この分野では十分ではなかったがオーナーに一定の貢献が出来たと考えています。
以 上
2011.7.25 小林 宗正