小さな省エネされど社会に貢献
建築設備の省エネ診断を目的に多くの既設ビルを訪れる度に、一つの共通した省エネ項目の存在に気付きます。セントラル空調方式の大概のビルではポンプ・送風機とうの熱搬送機器は設計スペックより2〜3割大きい流量を送り続けています。その分過剰な運転動力が消費され続けているわけで、この過剰動力の存在はエネルギー管理を専門とする者以外でも省エネ対象項目として衆知されていることであります。
問題は従来から熱搬送機器のこうした過剰運転動力が一般的に気付かれずに見逃されて来たことです。近年の如くエネルギー管理が厳しく叫ばれる環境下では、不合理が隠され続けることは出来ないでしょう。何故過剰が許されて来たか又それを無くすにはどうすべきかを追求し、今後はこれら弊害の発生原因と対応策を踏まえた搬送機器の合理的な運転が可能でなければなりません。これは小さな省エネ対象ではありますがこの省エネ社会への貢献に深く繋がっているように思います。その過程を追ってみましょう。
搬送機器の運転動力過剰問題は設計者や施工業者に拘りないかのごとくビルオーナーサイドが電力料金に含めて支払われて来たため問題が表面化しませんでした。しかしこれら動力ロス発生原因は設計者を含めた建設業者サイドにあったと言えます。それは建設業者の施工範囲に「試運転調整」が包含されているからで、設計者はそれを確認する立場にあります。建物の竣工引渡し時点で、空調設備の場合は居住空間が冷房できるか暖房できるかが大局的に把握された段階で、完成したものとして引渡されてきました。ポンプや送風機が設計スペック通りで運転されているか否かの確認まで行われてこなかったと言う慣例的な事情があり、流量や水頭・静圧などを把握する手軽な計測手法が開発されていなかったことも原因として指摘されるでしょう。施工業者にとって工事を終えた後の試運転調整作業で、データ収集や分析資料作成に対しては煩雑な雑作業として敬遠されがちであり且つ正確性には疑問があったと思われます。
欧米では施工業者とビル管理会社(ビルオーナー側)の間に試運転調整を行う専門業者が存在し、徹底して試運転資料を収集し設備の機能を分析・把握する、と言う話を以前聞いたことがあります。この仕組みだと施工業者も自然とミスや手抜きのない仕事を強いられるので、合理的な建設業のシステムだと感心したものです。しかしわが国ではそう簡単には伝統的な業界の在り方は変わりません。この欧米のシステムだと熱搬送機器の運転動力過剰問題は生じないはずです。即ちこのシステム自体が搬送機器の運転動力過剰を無くす方策であり得たわけです。この段階ではわが国では搬送機動力過剰を垂れ流しで、欧米ではそれが無くわが国は遅れに甘んじていた事になります。
ところが省エネ技術への取り組みが早かったわが国はインバータの活用で、近年ではこの種の動力過剰を無くすだけでなくよりレベルの高い省エネに成功しています。周波数比の設定を変えるだけで搬送機の羽根車の回転を容易に変化させ仕事量に見合った動力消費運転が可能になりました。ビル管理会社の担当者も容易にその操作を行い得て、効率的な運転が難しいことではなくなりました。省エネ先進国の我が国はそれまで先を走っていた欧米を前向きな技術への取り組みで一足飛びに追い越しさらに引き離す勢いにあります。
空調設備に用いられるポンプや送風機は理想的には冷凍機の運転と同じように空調負荷の変動に応じて出力が変化する形で運転されるべきものです。現在では一部を除いてそのレベルには至っていません。我々エンジニアリングの要請でインバータテクノロジーの組み込まれたモータがやがて身近なものになれば、熱搬送機器も現在のように負荷に無関係に常時一定回転で運転を続ける電力消費量よりはるかに少ない電力量で済むことになり、より一層この省エネ社会に貢献できるでありましょう。
以 上
2011.11.30 S・K